畜産と環境問題|肉の消費を抑えることが、環境保護になる理由とは
全世界の飛行機、自動車、鉄道から排出される温室効果ガス量をも上回ってしまう、強力な排出源をご存知でしょうか。
実は、畜産によって排出される温室効果ガスは、乗り物が排出するガス量よりはるかに多いのです。その他にも、世界の水資源の、なんと3分の1もが畜産業のために消費。アマゾン森林破壊は91%が畜産業によるもの。
このように、意外にも環境問題に大きく加担している畜産。
今回の記事では、畜産が与える環境問題への影響をご説明したのち、私たちが日常で気軽に実践できるアクションをご紹介します。
畜産には大量の資源が消費される
まず、畜産には予想以上に多くの資源が消費されている現状を確認していきます。
なんと、家畜にわたっている食料や資源を、貧困などに苦しむ人間に供給すると考えると、およそ40億人もの人々に栄養を行き渡らせることが可能であるという研究結果があるほど(※1)。
※1
西尾道徳の環境保全型農業レポート:穀物を家畜でなく人間が直接食べれば,世界の人口扶養力が向上
https://lib.ruralnet.or.jp/nisio/?p=2979
では畜産には、いったい何が、どのように、どれくらい消費されているのかご説明します。
主に大量消費される資源は、以下の3つ。
- 水
- 穀物
- 土地
水、穀物、土地の順に、畜産が関わる資源の消費をご説明します。
畜産に必要とされる水
まず、えさになる穀物を育てたり、家畜に飲ませたりするために消費される、水について。畜産に必要とされる様々な用途の水を合計する、全世界の淡水量の29%が畜産に消費されています(※2)。
※2
東京大学 公共政策大学院事例研究(テクノロジー・アセスメント)2020年度:培養肉に関するテクノロジーアセスメント
https://www.pp.u-tokyo.ac.jp/wp-content/uploads/2016/02/8d030f5869354d431cb27ad6cb42730b.pdf
牛肉の例で説明すると、ステーキ1kgをつくるために必要な水は約15,500リットル。イメージがつきにくいかと思いますので、トマトを育てる時に使われる水の例をあげると、トマト1㎏に必要な水の量は、約200リットル。なんと、牛肉を生産するには、トマトの77倍もの水が必要なのです。
世界規模でみると、干ばつや水不足に苦しむ人々もいる反面、食肉のためにこれだけの水が使われています。
家畜の餌として不可欠である穀物
事実として、世界中の穀物の50%以上が、家畜に供給されています。また、家畜に供給される穀物は、貧困に苦しむ人口が多い途上国で栽培され、そのような穀物で育った家畜は、先進国へと輸出されるのです。
さらに、飢えに苦しむ子供たちの90%以上が、穀物を家畜のために育てているという現実。
なんと、家畜のために栽培されている穀物がもし人間に供給されるのであれば、養えるという研究結果が発表されています。
作物を栽培できるはずの土地を家畜が占める
肉食文化が国境を越えて広まった現代の世界。家畜または家畜の飼料を育てるための土地が、凍土をのぞいた地球上の土地、3分の1ほどを占めています。
また、家畜を飼育するための放牧地や飼料用作物の栽培に使われている農地は、地球上に存在するの80%以上。しかし、家畜から培養肉にシフトすることで、およそ95%もの土地利用率を減少できることが研究結果でわかっています。
畜産が引き起こす環境問題
畜産が深く関係している環境問題は、以下の4点。
- 地球温暖化
- 森林破壊
- 水質汚染
- 種の絶滅
普段何気なく食べているお肉が、これほどまでの環境問題に影響していると想像しただけで、意外な印象を抱く人が多いのではないでしょうか。
最近になって、畜産が与える環境への影響がどんどん明るみになってきています。
では、ひとつずつどのように関わりがあるのか見ていきましょう。
地球温暖化
まさに、地球温暖化は、家畜がオナラやゲップをすることによって助長されます。また、商品として他国に輸出する際に排出される、膨大な温室効果ガス量も見逃すことができません。
畜産は、地球上の温室効果ガス排出量の、実に18%を占めており、これは意外にも車、船、飛行機などの輸送機関が排出するガス量を上回っているのです。
さらに、このまま畜産と環境問題についてなにも対策をとらないでいると、2050年までに温室効果ガスの52%が農業由来のもの、そのうち70%が畜産による排出になってしまうことが予想されています。
森林破壊
実は、アマゾン破壊の90%以上の原因が畜産。また、毎秒サッカーグラウンド1つ分の熱帯雨林が、畜産のために伐採されているという事実もあります。
また、森林破壊は、環境に関わる問題だけではありません。なんと、土地を保護するために活動している土地活動家が、アマゾンが位置するブラジルでは1100人も殺害されてしまっています。このように、環境だけではなく、人権問題までも侵してしまうのが、家畜問題なのです。
種の絶滅
さきほど、森林破壊についてご説明しましたが、生息地が制限されることによって、種の絶滅という課題も、深刻化をたどります。
熱帯雨林の破壊により、毎日最大137種が失われている動植物。また、家畜を保護するために、野生動物を殺害してしまう捕食者の存在も浮き彫りになってきました。
植物や動物が絶滅してしまうことは、自分とは関係ないことのように感じてしまいがちだと思います。しかし、生き物が絶滅してしまうことは生態系をも壊してしまうリスクを含む、人類にとっても深刻な問題なのです。
水質汚染
家畜による環境問題は、陸上の問題にとどまらず、水質汚染にもつながっています。
懸念されている水質問題は、畜産排水(家畜のふんや尿)とよばれる汚れた水を放置、流出させることにより、細菌が増殖して広がり水が汚染されること。
これにより、生態系が破壊されてしまうだけではなく、生活水にまで影響を与えてしまう可能性があります。つまり、人間のカラダにも悪影響を及ぼしてしまうリスクがあるということです。
こちらでは、畜産による環境問題を、大きく4つに分けてご説明しました。
次に、私たちの生活と畜産、そして環境問題がどのように結びついているのかをイメージしていただくために、世界の肉消費の現状を解説いたします。
先進国ほど多くの肉を消費している
ここまで説明したように、環境破壊を助長する一因である畜産。
解決策を考える前にお伝えしたいのが、先進国ほど多くの肉を消費しているということです。なぜなら、所得水準と肉消費量は正の相関関係があり、所得水準が高い国ほど、肉消費量は高くなる傾向があるから。
例を挙げると、1人当たりGDPが52,837ドルのアメリカの1人当たりの年間肉消費量が116kgに対し、1人当たりGDPが17分の1である2,960ドルのバングラデシュでは、1人が1年に消費する肉はたったの3kgということがわかっています。(1)
また、肉の消費量が低いことから途上国ではタンパク質不足が、反対に先進国では肉の消費量が高いがために、摂取する脂質量も増加し、健康への影響が出ています。
このように、消費できる肉の量は世界的に不均衡である状況です。
しかし今後、中国や東南アジア諸国、そしてアフリカ諸国など、経済発展が著しい国々からの需要が高まれば、より多くの負担が環境へかかることが予想されます。
ちなみに、私たちの暮らす日本も先進国、大量の肉を消費する国のひとつ。
各国が発展することで肉への需要が増加し、拡大する可能性のある畜産が環境問題を助長するリスクを和らげるには、どのようなことができるでしょうか?
ここから、私たちが普段の生活に取り入れることで、畜産による環境問題を緩和、または解決できるアクションをご紹介します。
(1)出典:レポート | 世界の食肉需要の行方-穀物市場へのインプリケーション- – 株式会社三井物産戦略研究所
食生活を見直してみよう
私たちが日常的にできる対策としては、身近すぎる存在になってしまった肉食を見直すということ。
ベジタリアンという言葉を聞いたことがある方はたくさんいらっしゃると思いますが、その他にもそれぞれの人によって様々な食の価値観があります。
例えば、下記の3つのコンセプト。
- フレキシタリアン
- ベジタリアン
- ヴィーガン
こちらでは、上記3つの食についての考え方をご紹介します。
フレキシタリアン
フレキシタリアンとは、フレキシブル(柔軟)とベジタリアンが組み合わさった言葉で、ゆるいベジタリアンとも言われています。ベジタリアンやヴィーガンとの違いは、その柔軟性。自分の食生活に、どの程度の規制をつけるかは、全てその人次第なんです。
そのため、友達との外食では肉食を解禁したり、毎週月曜日だけノーミートデイ(肉を食べない日)にしたり、自分なりのルールで楽しんでいる人が多い印象が強いのが、フレキシタリアン。
フレキシタリアンについて、詳しい情報は下記の記事でご説明しています。
ベジタリアン
ベジタリアンという考え方は、フレキシタリアンよりかはルールが増えてしまうものの、またこれも、人によって口にする食材の範囲は異なります。
例えば、野菜以外でも、卵や牛乳などの乳製品は許容する人や、鶏肉のみ口にする人など、さまざまです。いずれにしても、環境的負荷の大きい牛肉の消費は避けることができます。
ベジタリアンについて、詳しい情報を知りたい方は下記の記事へどうぞ。
ヴィーガン
完全菜食主義者とよばれる、ヴィーガン。主に、植物由来の食物だけ口にするという特徴をもちます。
さきほどご紹介した、フレキシタリアンやベジタリアンと比較すると、ルールや制限が多いヴィーガンですが、自らの食生活が環境や社会に与える悪影響を最小限に抑えられます。
ヴィーガン(菜食主義)とは、下記の記事で簡単に説明しています。
こちらでは、肉の消費量を日常的に抑えることができる3つのスタイルをご説明しました。しかし、今すぐにこのような食生活にシフトすることは簡単ではないと思います。
そこで、食生活を大きく変えるわけではないですが、環境問題への影響を抑えることができると話題の、代替肉を楽しめるレストランをご紹介します。
代替肉を楽しめる都内のレストラン
ネクスト焼肉(ネクストミーツ×焼肉LIKE)
話題の代替肉ベンチャー、ネクストミーツとひとり焼肉で有名な焼肉ライクが共同開発した、NEXTカルビやNEXTハラミ。現在、焼肉ライクでは、大豆を用いた焼肉用代替肉の焼き肉を楽しむことができます。
従来だと、生肉を焼くというイメージが強かった焼肉ですが、プラントベース(植物由来)のお肉で楽しむことができる、焼肉業界でも型破りな企画です。プラントベースのお肉に抵抗がある方も多いかもしれませんが、その新感覚なスタイルが話題をよんでいるため、ぜひ体験してみてはいかがでしょうか。
IKEA(渋谷店)
北欧の家具でおなじみのIKEAからも、べジドックラインが新しくデビューしました。以前から、環境負担に関心の高かった同社は渋谷センター街に新店舗をオープン。
IKEA渋谷店では、プラントベースでサステナブルなべジドックを堪能することができます。このべジドックは、フェイクミートを使用しており、植物性の原材料にこだわった逸品。なんと、従来の豚肉を使用したホットドックに比べ、べジドックをつくるために排出される二酸化炭素量は10分の1だそう。
プラントベースでサステナブルという2つの魅力を持つべジドックをぜひ味わってみてください。
さいごに。日々の肉消費を控えることが、環境保護につながる。
今回の記事では、畜産に必要とされる資源や、畜産が与える環境への負荷、環境を保護するための食生活など、幅広くご紹介しました。
記事を読んで、肉食を続けることのリスクに気づくことができた皆さんでも、明日から急に食生活を変えるということは難しいと思います。
ただ、この記事を通して知ってほしかったことは、肉の消費量を少しだけ減らすことも環境保護につながるということ。
週にお肉を食べる日を決める。外食だけお肉を食べる。プラントベースのお肉にしてみる。このように、個人が少しだけお肉の消費量を抑えることで、畜産がもたらす環境への負担を減らすことができます。
みなさんも、ご自身の食生活を振り返ってみてはいかがでしょうか?
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
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