世界初!10の多機能素材COVEROSS®を開発した鈴木素さんが見据えるファッション界の未来とは?

上記の写真は、世界最大のファッションの展示会であるパリのプルミエールビジョン等5ヵ国で披露した、オーガニックコットンにCOVEROSS®︎加工してる着物。

ファッション業界は、華やかさとは裏腹に、『世界で2番目の環境汚染産業』と風刺されるほど、環境負荷が高い産業だと言われています。

また、サプライチェーンに目を向けてみれば、労働環境や児童労働などの問題も未だに存在するのが現状です。

そんなファッション業界ですが、一方で、人にも環境にも優しいサスティナブルファッションという、新しいファッションのあり方を追求しているブランドも存在します。

その1つが、hap株式会社の鈴木素さんが展開するCOVEROSS®。

人にも環境にも優しいを追求するCOVEROSS®ですが、鈴木素さんがCOVEROSS®での取り組みを通じて、実現したいこと、そして私たち消費者に伝えたいことは、一体なんなのでしょうか。

鈴木 素
hap株式会社CEO
世界初の快適多機能性素材「COVEROSS®シリーズ」を手掛ける他、オリジナルアパレルブランドBLUEYの展開、ファッションの提案・企画・生産管理も行う。
フィンランドのサーキュラーエコノミー開発団体『telaketju』に日本企業で唯一加盟している。

 

COVEROSS®とは?

吉高
それでは、COVEROSS®がどういうブランドか、教えていただけますでしょうか?

鈴木さん
COVEROSS®とは、人にも地球にも優しい素材であり、洋服です。

吉高
素材であり、洋服とはどういうことでしょう?

鈴木さん
COVEROSS®は元々、多機能素材としてスタートしたんです。

機能としては、例えば夏だったら涼しいもので、UVカットがあったり、匂いにくかったり。冬は、抗菌・抗ウイルス機能があるのがいいじゃないですか。

要は、COVEROSS®は安心安全で快適な生活を作るための素材だったんです。

ただ、素材としての機能性を追求しているうちに、これだけでいいんだっけ?と思うようになり、洋服としての商品を売ることも始めました。

吉高
「これだけでいいんだっけ?」というのは、どういったところに疑問を持たれたのでしょうか?

鈴木さん
サプライチェーンの在り方です。洋服を作って売るには、原料を調達し、素材にして、縫製をする人たちがいて、輸送されて、最終的に商品として売る小売がいます。

その中で私が関わっていたのは、原料と素材の部分だけ。

そうすると、その素材が、どこの国で、どんな労働環境の中で裁縫されているのか、そして環境にどれだけダメージを与えているのかが掴めません。

例えば、オーガニックコットンを使っていても、製造の工程で人体や環境に良くない薬品を使っていたりすると本末転倒じゃないですか。

洋服は、毎日着るものなのに、製造の過程で、強制労働の問題があったり、化学薬品を川に流して、生態系にダメージを与えていたりしていて、倫理面がしっかりしているかわからないことが多い。

要はトレーサビリティがない状態なんです。

だからCOVEROSS®では、原料の調達から製品になるまで、児童労働がなかったり、環境に配慮していたりといった倫理面を保証しようと考えて、現在では洋服も作っています。

サスティナビリティの追求は自分が目にした現実から始まった。

途上国へのしわ寄せからhap株式会社、COVEROSS®は始まった。

吉高
なるほど、素材として追求して行けばいくほど、ファッション全体の在り方に疑問を抱いて、だから洋服全般に関わっているということですね。

そもそも環境や人道に配慮した服作りをしようと考えたきっかけはあったのでしょうか?

鈴木さん
自分自身が洋服系の商社に勤めていた時の経験からです。

その商社では、ジーンズカジュアル課にいて、毎年20回ほどの海外出張がありました。

出張先でいろんなデニムの製造工場を見て回るのですが、如何せん労働環境がよくないんです。

マスクもせずに、日本では禁止されているような化学薬品を扱っていて、健康リスクがあったり、その化学薬品をそのまま排水として、川に流していたりしていた現実がありました。

最初はファッション業界はこういうものだと思っていました。簡単に言えば、見て見ぬ振りをしていたんです。無意識ではありますが。

でも、ある時からやはりおかしいなと気付き始めました。

吉高
そんな途上国の労働環境の現実を目の当たりにして、心境に変化があったんですね。

鈴木さん
はい。今でこそ、倫理的な側面も重視され始めていますけど、2000年代はとにかく、洋服を安く大量に作ることが全てでした。そのためには生産地や作り手を無視してでも構わないという風潮があったんです。

そんな業界に疑問を持って、環境関連のイベントに出てみたり、いろいろ自分で調べてました。

すると、先進国がファッションを安価で楽しんでいる反面で、途上国が環境にしても労働環境にしても、いろんな面で犠牲になっている現実があったんです。

吉高
いわゆるスウェットショップなどですね、、、

鈴木さん
そうです。じゃあ、この現状に対して、自分は何ができるかって考えた時に、洋服のサプライチェーンにまで配慮したファッションを自分で作ろう。そう思って始めたのが、COVEROSS®でした。

10の機能を1行程で付与することの意味

吉高
ご自身の経験から、洋服全体のサプライチェーンのあり方を変えようとされて始めたのがCOVEROSS®だったということですね。

では、具体的なお話に移って行きたいのですが、COVEROSS®は素材としてどんな点で優れているのでしょうか?

鈴木さん
素材自体と製造過程の2つに分けてお話をできればと思います。

まずは、素材について。

COVEROSS®の中でもシリーズがあるのですが、その中でもCOVEROSS®WIZZARDは、10の機能が付いていて、世界を見渡しても当社にしか作れない高機能素材です。

COVEROSS®の10の機能

 

2017年から光触媒技術の応用で、下記の機能を一枚の素材に付与することが可能になっています。

 

  • 吸収速乾
  • 接触冷感
  • UVカット
  • 透け防止
  • 汗染み軽減
  • 抗菌
  • 消臭
  • 抗花粉
  • セルフクリーンニング
  • 光触媒

吉高
10の機能が共存している素材なんて聞いたことが無いです(汗)

では、工程に関してはいかがでしょうか?

鈴木さん
全てを1工程で完了させることができるので、水もエネルギーも通常より削減し、環境に優しい製造方法を採用しております。

通常、10の機能を付与しようと思うと10回に分けて加工する必要があるのですが、当社独自の技術で、1回の工程で10の機能を同時につけることを可能にしています。

これは、下記の3つにおいて、当社オリジナルで、正直他社では真似ができない専売特許です。

  • 生産設備
  • 機能性の薬剤
  • 生地に対しての付け方

また、これだけの機能を付与しているにもかかわらず、1工程で完了するため、通常の何も機能がない素材と比べても50%もエネルギー使用を減らしています。

サーキュラーファッションに対する取り組み

吉高
鈴木さんは、サーキュラーファッションの領域にも取り組まれていると伺いました。

具体的に、どんな活動をされているのか教えていただけますか?

鈴木さん
現在、『Meaningful Continuity』というレーベルをナノユニバースさんとBRING(日本環境設計)さんと共同で行っています。

Meaningful ContinuityをナノユニバースとBRINGと

 

服から出来た服”が標語なのですが、要は、今までのように服を原料から作って、捨てるという一方向の付き合い方ではなく、要らなくなった服を回収して、リサイクルした素材から再び服にするというプロジェクトです。

hap株式会社では、企画の提案から製造までを行う事業もしているのですが、今回は一緒に環境配慮したレーベルを提案させていただきました。

その中で、環境配慮に加えて機能性を追加するために、COVEROSS®︎の快適多機能性を付与しております。

環境に優しいのは前提で、快適性とファッション性も追求した服作りを行っているのが『Meaningful Continuity』です。

吉高
素敵なコラボですね。そもそもの疑問なのですが、サーキュラーファッションに取り組まれているのはなんでなんでしょうか?

鈴木さん
持続可能ではない経済成長を求めている中で、全てを変えないといけないなと考えたためです。

要は、従来の大量に安く作って売る。消費者は買って、着て、要らなくなったら捨てるというモデルは限界を迎えているということです。

人口は10億人だった時代はよかったかもしれません。しかし、2020年現在の世界人口は70億人いて、2050年には100億人に達そうとしています。

地球の資源では、それだけの人口は賄いきれませんし、その中で経済発展だけを求めようとしているから、途上国などにしわ寄せがくると考えています。これは数字を出さなくても、誰が見ても明らかな状況だと思うんです。

要は、この状況で従来の経済発展だけを追い求めるのはもう不可能。だから、全てを変える必要があると思っています。

吉高
だからサーキュラーファッションが必要で、『Meaningful Continuity』というプロジェクトを行っているんですね。

鈴木さん
おっしゃる通りです。

このプロジェクトはまだ第1回ですが、その名の通り、継続することと、周りを巻き込むことがが重要だと考えています。

要は、自社だけでやってもいいのですが、それだと「僕たちすごくない?」と独りよがりになってしまうんですよ。

でもそうじゃなくて、いろんなブランドや社会全体を巻き込んでいくから、全てを変えられると思うんです。

また、こういった取り組みは1回きりだと意味がなくて。

いいことをしているから継続性が必要だし、継続するためには売れないといけない、そして売れるためにはカッコよくないといけない

ありがたいことに、『Meaningful Continuity』プロジェクトには多くの共感を得ましたので、第2段、第3段の展開が決定しました。

2020年12月からスマホで温度調整できるファッションと機能性、そして環境配慮なアウターを。そして2021年春からはメンズ、レディースでの第三段の展開も決まっております。

正直、環境や社会にとって、何が正解は誰にもわからない中で、必要なのは試行錯誤をしながらも、一つの方向に向けて取り組みを続けることだと思うんです。

だから、『Meaningful Continuity』というプロジェクトの名前にもあるように、意義のある継続性を大事にしたいと考えています。

 

30年後を見据えた買い物はできているか?

責任のある消費者として

吉高
このように、サーキュラーの考え方が始まったりして、転換期にあるファッション業界ですが、その業界の中にいる鈴木さんだからこそ、消費者の私たちに伝えたいことはありますか?

鈴木さん
ファッション業界がサーキュラーファッションや、サスティナブルな生産方法などを追求するのはもちろんですが、消費者も責任のある買い物ができればいいなと考えています。

要は、「今買おうとしているものは本当に必要か」と考える必要があるということです。

多くの場合は、衝動買いで、言い方が適切かは分かりませんが、必要のないものを買っていることが多いんですよ。

Patagoniaがブラックフライデーに『このジャケットを買わないで』という広告を出して話題になりましたけど、必要なものであるかを今一度立ち止まって考えることは重要だと思います。

なので、もちろん物欲は大事ですが、その買い物は30年後の自分が今の自分に対して責任のある行動だったと言えるか、買う前に考えてみて欲しいですね。

吉高
企業は売らないといけないし、だからより魅力的に見せるし、という状況がある中で、消費者が買わないという選択をするのは難しいテーマですね(汗)

鈴木さん
そうですね。ただ、持続可能性は作り手と買い手の双方向の話だと思います。

作り手の宣伝に惑わされるのではなく、作り手の本質を見抜く力も養っていくことで、ブランドを育てて欲しいんです。

それこそ、ヨーロッパのサッカークラブとファンの関係のように、いいものは褒め、よくないものにはしっかりとフィードバックする。

「その環境配慮めっちゃいいじゃん!」みたいに、いい時は褒める環境が必要だと思います。

なので、求めすぎかもしれませんが、いち消費者であり、サポーターでもいて欲しいですね。

一企業ではなく、システムを刷新する者として

ファッションのシステムを刷新したいと語る鈴木素さん

吉高
それでは、最後に今後の展望を教えてください。

鈴木さん
先ほど、点として捉えているという話があったかと思うんですけど、企業として、点で問題解決を考えるのではなくて、企業、消費者、国を横串で刺して、ファッションを通じて世の中を変えていきたいと考えています。

要は、本質的に必要なものを提供できる企業でありたいんです。

なので、一企業として何ができる?と考えるだけではなく、そもそものシステムを刷新したいと考えています。

吉高
システムの刷新ですか?

鈴木さん
そうです。消費者だけではなく、企業という単位でもなく、新しいスタンダードの新しいシステムの中で、正しいことをするんです。

例えば、この服はどこでどうやって栽培された原料で、どこでどのように裁縫されて、自分は何回着て、どうリサイクルされるのかということを明確にする。そういったトレーサビリティ(追跡可能性)を担保することが重要だと思います。

この洋服は、20XX年に、アメリカで採れたコットンがXX%ブレンドされていて、どこの工場で糸にして、それが日本にお店で入ってきて、自分がいくらで買ったか。

そして、その服を何日間着て、何年間所有していて、それをリサイクルした時に、リサイクル料としてXX円がバックされて、それがまた新しい生地になる。

そうするとオーダーの時に、このような情報が全て詰まっていて、「これはどこどこで回収した服が入ってるロットで、今は自分の子どもが着てて」みたいに、人間が成長する如く、洋服も成長していく世界が見えてきます。

このような正しいことをやるって、正直すごく大変ですが、トレーサビリティを持ったシステムを作ってしまえば、児童労働や強制労働は起きないようにできるはずなんですよ。

だから、新しいスタンダードで、新しいフィールドで、消費者も作り手も同じ方法を向いていけば、世界2位の環境負荷があるファッション業界も大きく変わる日がくると信じていますし、そういうプロジェクトをやりたいです。

正直、やれるかどうかはわからないですが、やるっていう気持ちだけは、持ってます。

吉高
そのように、システムを変えることは言うのは簡単かもしれないですが、本当に大変だと思います。しかし、その先に正しいことを正しくやれる世界は待っていると思いますし、鈴木さんが目指す世界が実現することがすごく楽しみです。

本日は、貴重なお話をありがとうございました。
編集後記
インタビューの中で、テスラのような企業になりたいとおっしゃっていた鈴木さん。

テスラが未来から逆算した際に、本当に必要なものは何かを考えて、エネルギーゼロの移動手段をビジネスにしているように、未来に責任を持てる本質的な企業でありたいと答えてらっしゃるのが印象的でした。

また、すでに、世界でも唯一の素材を開発しているにもかかわらず、さらに下記に対する挑戦にも意欲を燃やしているとのこと。

  • 水を全く使わないで、洋服にあらゆる機能を付与する技術
  • 体調や天候によって洋服の機能をパーソナライズする技術
  • スマートシティで、健康寿命を伸ばすためのスマートウェアの導入

これから新しいファッション、全く新しいシステムを作られる鈴木さんの活動から目が離せません。

それでは最後まで読んでいただき、誠にありがとうございました。

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ライター:Sohshi Yoshitaka
Ethical Choiceの初代編集長。2030年までに地球が持続可能になる土台を、ビジネスを通して作ることがミッション。

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