海洋汚染の現状とは?プラスチックから海を守るための取り組みを解説
by Brian Yurasits
海洋汚染とは、工場や生活から垂れ流される有害物質、またプラスチックなどのゴミによって、海が汚れていくことです。
汚染の原因には、工場排水や生活排水、または船の事故により石油などが流れ出すなどがあります。さらに、海洋汚染の大きな原因として問題視されているのは、プラスチックごみによる汚染。
当記事では、海洋汚染の現状を比較的大きな原因である海洋プラスチックの状況に焦点を当てながらご説明し、海洋汚染の原因や、世界各国が取り組む対策、そして私たちにできることまで幅広くご紹介します。
記事の後半では、汚染されるサンゴ礁にまつわる驚きの事実までお伝えしますので、最後まで読んでいただければ幸いです。
海洋汚染の現状とは?
海洋汚染の現状は、年々深刻になっています。海洋汚染が進む理由には、いくつかの種類がありますが、大きな理由は海洋ゴミによる汚染です。
そのなかでも、大半を占めるのが『海洋プラスチックゴミ』。事実として、以下のことがわかっています。
海洋汚染で問題視されているのはプラスチックの急激な増加ですが、それ以外にも、さまざまな要因が重なり海洋汚染が進行しています。
海洋プラスチックごみ問題については、下記の記事をご参照ください。
(1)出典:環境省_令和元年版 環境・循環型社会・生物多様性白書 状況第1部第3章第1節 プラスチックを取り巻く国内外の状況と国際動向
海が汚れる原因
海洋汚染の原因として、こちらでは以下の5つに焦点を当ててご紹介します。
- マイクロプラスチック
- 生活排水
- 商業事故
- 工場排水
- 地球温暖化
それでは、ひとつずつ見ていきましょう。
マイクロプラスチックによる海洋汚染
海洋汚染の原因にプラスチックごみ問題があるとお伝えしましたが、特に深刻視されるのがマイクロプラスチックによる海洋汚染です。
マイクロプラスチックとは、プラスチックごみが劣化したり、マイクロプラスチックビーズというそもそも小さなプラスチックのこと。サイズは、5mm以下と定義されており、大変微細なプラスチックです。
日本周辺の海は、世界的にもマイクロプラスチックの浮遊が多い区域で、世界平均の約27倍(2)だと言われています。
さらに、世界の海では、50兆個以上のプラスチックが世界の海を漂っている(3)とされ、海洋生物の体内に異常をきたす要因です。
一見きれいに見える海でも、マイクロプラスチックが漂うことで、海の生態系の維持が危うくなっているのです。
(3)出典:世界中で50兆個! 海面に漂う“マイクロプラスチック”が地球に及ぼす影響とは | EMIRA
人間の生活が影響する汚染
ポイ捨てをしていなくとも、私たちの生活からでる生活排水によって、海を汚しているかもしれません。
日本では、公害の歴史があるため、工場からの排水である産業排水を取り締まる法律は整っていますが、生活排水は依然と多い傾向に。
例えば、伊勢湾を汚染している原因の割合は、生活排水49.1%、そして産業排水38.0%の構成(4)になっています。
また、海外に目を向けてみると、生活排水の深刻な海洋汚染の状況が見えてきます。現在、世界では生活排水の90%が未処理のまま流されている(4)状況。
特に、途上国が多いアジアやアフリカ地域では、排水を処理する割合が低くなっています。例を挙げると、ベトナム、インドネシア、そしてフィリピンの東南アジア諸国では、し尿や排水管理が手つかずのままです。
生活排水の出どころを台所、トイレ、お風呂と区分すると、最も多いのは台所からの排水だと調査(5)でわかっています。
油大さじ1杯分を、魚が住めるくらいの水質に戻すためには、お風呂約20杯分に相当する6000リットルの水が必要(5)です。そのため、水回りで流すものには気をつけてみましょう。
(5)出典:京都府ホームページ
事故による汚染
海は、商船などから有害物質が垂れ流されるなど、事故によって汚染されることもあります。
モーリシャス諸島近海にて、日本の商船わかしおがサンゴ礁に座礁し、周辺の海に石油を流出した事件をご存知でしょうか?
当時、事故が起こり重油約1000トンが海に流出し、深刻な海洋汚染に発展しました(6)。
モーリシャスの人たちは、彼らの生活が根付く美しい海を守るために手作りのオイルフェンスを海に並べて重油から浜を守ったり、手で重油をすくってバケツに入れるなど、懸命な復旧に当たりました。
フランスや日本など、国際的なボランティアも派遣され復旧作業をおこないましたが、すでに浜辺でカニや海の生き物の死骸が確認されています。
さらに、マングローブに油が付着した状態が半年続くと、枯れてしまうことがわかっており、モーリシャスが守ってきた生態系に危機が生じています。
このように、商業事故による海洋汚染は、海の生態系を壊すリスクだけでなく、美しい海を活用した観光業にまで打撃を及ぼす原因です。
(6)出典:海の環境汚染:モーリシャス沖 貨物船「わかしお」座礁
工場から化学物質が流出する
工業排水も、海洋汚染を進行させる要因の1つ。途上国では、工業排水が流出して河川や海が汚染されている状況です。
繊維工業の下請け工場が多く位置するインドやバングラデシュでは、産業廃棄物が工場から河川に放棄されているケ―スがいくつも報道されています。
インドのカンプールでは、皮から革を製造する皮なめし工場が産業廃棄物を河川へ直接捨てていることが判明。また、化学薬品を使う染革も、川の近くで干し作業が行われていたことがわかっています。
また、バングラデシュでも同様のことが起こっており、工場の従業員だけでなく、河川の周辺に住む人々の体にまで異変が及んでいるのです。
化学物質に浸された革なめし工場の床からは、動物の肉、硫酸、クロム、鉛などを含んだ排水が首都ダッカ周辺の河川に流れ着いています。
このように、工業排水は河川を流れ、海洋を汚染している原因の1つです。
地球温暖化
さらに、地球温暖化によって、海洋汚染が進む事例もあります。
トルコにて確認されたのが、通称『海の鼻水』による海洋汚染。藻類が、鼻水のようなねばねばとした粘液を大量に発生させ、海洋生物を脅かしています。
専門家は、環境汚染と地球温暖化が二重で作用し、海の鼻水の原因である藻類の成長を促進させたと考えられると報告。
現場周辺の海では、漁業にダメージが生じていたり、周辺に生息する海洋生物が減少したりなど、さまざまな被害が確認されている状況です。
直接的に海へ汚染物質を流すだけでなく、地球温暖化も海洋を汚染する1つの原因となります。
海洋汚染の影響を受けるサンゴ礁
ここまで、海洋汚染の原因を解説しましたが、海洋の生物は汚染によってどのような影響を受けているのでしょうか。
こちらからは、海洋汚染の影響を受ける『サンゴ礁』の現状をご説明します。
サンゴ礁は、温暖化、酸性化、そしてプラスチック汚染という複数もの影響を受けている状況。
海洋汚染の要因であるプラスチック汚染に焦点を当てると、サンゴ礁はマイクロプラスチックを食べ、栄養失調になっているケースが多く見られます。
研究によると、サンゴ礁のなかにはマイクロプラスチックを好んで食べる個体が存在。マイクロプラスチックには、有害な化学物質が含まれていたり、栄養素がないのにお腹を満たしてしまうため、マイクロプラスチックを食べたサンゴが病気になる可能性が高いです。
サンゴ礁を守るべき理由
海洋汚染の被害を受けているサンゴ礁は、地球を持続可能な場所にするためにも保全すべき存在。サンゴ礁を守るべき理由をご紹介します。
- サンゴ礁は、海底のわずか0.7%しか占めていないが、海洋生物の25%に住み家を提供(7)
- サンゴ礁は、4000種類の魚や700種のサンゴを育んでいる(7)
- サンゴ礁は、海岸線を侵食や嵐や波によるダメージから守る(7)
以上のように、サンゴ礁は生態系にとって欠かせない存在ですので、守るべきだと言えます。
海洋生物だけでなく、人間への影響も
海洋生物だけでなく、人間にも影響を及ぼす海洋汚染。マイクロプラスチックや、工業排水によって汚された水により、私たちにも影響が生じているのです。
まず、マイクロプラスチックで汚染された海から漁獲された魚を摂取すると、マイクロプラスチックを体内に取り入れる可能性があります。
マイクロプラスチックには、多くの化学物質が含まれており、内分泌かく乱物質(いわゆる環境ホルモン)として人間の体内へ流入。体内のホルモン作用を阻害する原因になります。
さらに、工業排水によって汚染された途上国の河川では、手足のしびれや、皮膚疾患を起こす可能性が。
このように、私たち人間の健康にも関係しているので、海洋汚染は解決すべき問題です。
海洋汚染には世界はどう取り組む?
by Tim Mossholder
では、海洋生物だけでなく、人体にも影響のある海洋汚染に、世界はどのように取り組んでいるのでしょうか?
ここでは、世界各国で海洋汚染の解決に取り組む対策の事例をご説明します。
プラスチック使用禁止という解決策
プラスチックが原因の海洋汚染を解決するために、世界6つの国ではプラスチックの使用が禁止に。
プラスチックの使用が禁止となったのは以下の地域です。
- インド・カルナータカ州
- アメリカ・サンフランシスコ、ロサンゼルス、ポートランド、ホノルル
- オートラリア・タスマニア
- エチオピア
- フランス
- モロッコ
すべての地域で、一切プラスチックの使用が禁止されたわけではなく、サイズによってや、使い捨てのプラスチックのみ禁止するなど、自治体によって対応は変わっています。
しかし、プラスチックによる海洋汚染は、プラスチックの消費が全くなければ生じない問題なので、上記の地域の取り組みは、海を守るための素晴らしい一歩でしょう。
水質改善に取り組むインドネシア
インドネシアでは、世界一汚い川とも呼ばれるチタルム川の水質改善に向け、取り組みがおこなわれています。
チタルム川は、約2,700万人の生活を支える貴重な水源でありながら、汚染のレベルは世界一と言われるほど。汚染の原因の大半が、工場からの排水となっており、化学物質が多く含まれています。
インドネシアの大統領を筆頭に、チタルム川を長期的にきれいな川に戻す計画が設定され、日系企業も支援をおこなうプロジェクトです。
海洋の生物や人間の生活を守るために、世界ではさまざまな取り組みが始動しています。
日本の海洋プラスチックごみ対策アクションプラン
日本においても、海洋プラスチックごみを削減し、海洋汚染を改善するためのプロジェクトが存在します。
環境省は、海洋プラスチックごみを削減するために、海洋プラスチックごみ対策アクションプランを策定しました。
アクションプランの内容(8)は、以下の通りです。
- プラスチックごみの回収・適正処理徹底し、ポイ捨ての防止に努めること
- 陸海の両方でごみ回収に取り組むこと
- 海洋流出しても影響の少ない素材(海洋生分解性プラスチック、紙等)の開発や素材へのシフトを促進すること
- 途上国等における海洋プラスチックごみの流出防止に貢献すること
- 国際的に、海洋プラスチックごみの現状把握や科学的研究にも取り組むこと
アクションプランに付随して、消費者がプラスチック消費を削減する『プラスチックスマート』というキャンペーンもスタート。
環境省は、#プラスチックスマートを付け、プラスチックごみを削減するアイディアをSNS上で共有することを呼びかけています。
SNS上で発信し、プラスチックごみを削減することの必要性を広めることは、私たちが海洋汚染の解決に貢献する1つの方法でしょう。
(8)出典:環境省_「海洋プラスチックごみ対策アクションプラン」の策定について
私たちにできる9つのこと
by Mathilde Langevin
SNS上で発信すること以外にも、海洋汚染を解決するために私たちにできることがあるので、最後に9つのアクションをご紹介します。
- ゴミのポイ捨てをしない
- 海岸や河川敷の清掃活動に参加する
- マイボトル・マイ箸・マイストローを使う
- 使い捨てプラスチック製品の使用を控える
- 洗剤、シャンプーやリンスは適量を使用する
- 洗濯機にゴミ取りネットをつける
- マイクロビーズ流出を防ぐ洗濯ネットを使用する
- 調理に使った油は流さず新聞紙などに染み込ませ家庭ごみとして捨てる
- ご飯を食べ終わった後に拭いてから洗い、洗剤の消費を抑える
日常生活のなかでできることは、海洋ゴミをこれ以上増やさない取り組みや、生活排水を削減することなどが挙げられます。
台所やお風呂場からの生活排水を少なくできるよう、日々のなかで工夫を続けてみてはいかがでしょうか。
さいごに。海洋汚染解決に向けて
海洋汚染は、年々深刻化をたどり、海の生態系に影響を及ぼしています。
しかし、それと同時に解決しようとさまざまな団体や自治体による取り組みがおこなわれているのも事実。
海は、私たちに多くの恩恵を与えてくれる存在であり、地球を守ってくれる存在です。
地球を持続可能な場所とし、未来世代へと引き継いでいくためにも、日々できることからはじめてみてはいかがでしょうか?
また、海洋プラスチック問題に関しては、こちらの記事で詳しく解説しております。ぜひ一読いただければと思います。
海洋プラスチック問題とは?現状と原因、私たちにできることを解説
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
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