サスティナブルファッションのセレクトショップEnter the Eが「普通」を大事にする訳とは?
アパレル産業は華やかなイメージがある一方で、製造過程における人権問題や、その環境負荷から世界2位の汚染産業と風刺されています。
「自分の大好きな洋服が大きな犠牲の上に成り立っているのが耐えられなかった」と話すのが、サスティナブルな服だけのセレクトショップを展開するEnter the Eの植月友美さん。
服が好きすぎるあまり、服のために借金までした経験がある植月さんが、セレクトショップを通じて伝えたいことはなんなのでしょうか。
選択肢を増やすためのセレクトショップ
────では現在、どんな事業をやられているのか、教えていただけますか?
植月さん
Enter the Eという、作り手と環境に配慮した服だけを集めたセレクトショップを展開しています。
環境に配慮したい消費者にとっての選択肢を提供したかったのですが、その背景にはアパレル産業の構造的な問題があります。
ご存知だと思いますが、生産から廃棄まで様々な問題があるのがアパレル業界です。
例えば、生産過程における工場排水による汚染の問題や、製造後の大量廃棄問題。
現行の流行を追って服を製造するというシステムの中では、どうしようもできない問題になっています。
ただ、消費者に目を向けてみると、環境に配慮した洋服を買いたいと考えている人は8割以上いることがわかっています。その中で実際に環境に配慮した洋服を購入することを実践できているのは約3割。つまり、約7割の人は、購入したくてもデザインや価格などの理由で実践することができていないということなんです。そして、この数字は5年間変わらないと言います。
私は、思いがあるのに実践できない環境にあるのは、ある意味社会問題だと思うんです。
なので、そのように思いはあるけど実践に移せない人のための選択肢を増やして、従来の消費者を、環境配慮の実践者にしてあげることが、Enter the Eというセレクトショップの役割だと考えています。
────消費者の選択肢を増やすためのセレクトショップというわけですね。そもそも『作り手と環境に配慮した服だけを集めたセレクトショップ』を始めようと思ったきっかけはなんだったんでしょうか?
大きな失敗と作り手の犠牲
植月さん
2つの大きな原体験がきっかけになりました。1つ目は12年前です。
その頃は社会人に成り立てで、すごくストレスフルな毎日を送っていました。みなさんいろんなストレス解消法があるかと思うのですが、私の場合は小さいことから大好きだった洋服につぎ込んでしまったんです。
その出費は半端なものではなく、最終的には500万円も借金してしまいました(汗)
────500万円ですか?!
植月さん
はい。振り返ってみると、とんでもない失敗です。
洋服を集めることは自分の楽しみで、決して誰かに迷惑をかけるものではないと考えていました。ただ、事実として借金をしています。
そんな状況の中で、集めた大好きな洋服たちを見た時に、こみ上げてきた感情は自分のために生きる虚しさでした。
洋服ってなんだろ?って思いましたし、多いに内省しました。
誰かに迷惑をかけた分、大好きな洋服で恩返ししようと考えたのが1つ目の原体験です。
────壮絶ですね(汗)2つ目はなんだったのでしょうか。
植月さん
そこからファッションや洋服の問題を積極的に調べている自分がいました。
その時に知ったのが、散布剤によって大地や作り手を犠牲にしているという事実。
とてもショックでした。
自分の大好きな洋服が誰かの犠牲によって成り立っているのをどうにかしたい、人と地球が洋服を楽しむ社会を両立させたい。
両立させるためには、消費者から働きかけようと考えました。消費者に選択肢を提供することで、地球と手と手をとる。そしてお互いに楽しんでいる世界を実現するために、今のセレクトショップという形を選択したんです。
一括りにできないサスティナブルファッション
────では、実際にセレクトしているサスティナブルブランドとそのブランドの特徴をいくつか教えていただけますでしょうか?
植月さん
まずご紹介したいのはスペインのThinking MUです。
Thinking MUは、「nothing to hide(隠すことは何もない)」を一つの標語にしていて、要は隠さないことにコストをかけているブランドです。
認証済みの100%オーガニックの素材を使用しているだけでなく、自分たちでエコロジカルフットプリントや原価、作り手の状況をQRコードでトラッキングできるようにしています。
デザインはかわいいけど、すごくストイックで、ちゃんとフェアでエコであることを守っているブランドです。
もう一つ紹介したいのは、イギリスのBIBICOというブランド。
BIBICOはインドのムンバイで労働者が生活できるように、就労支援を行ったりしているのですが、先ほどのThinking MUとは反対にフェアトレード認証がありません。
────認証がなくてもサスティナブルなのでしょうか?
植月さん
認証はなくても、BIBICOは独自のアプローチで問題に対峙しているということです。
また認証という第三者を挟まずに、作り手とブランドの距離が近い方が中間コストがかからないため、より多くの利益を労働者に還元できます。そういうのも踏まえてBIBICOでは長年認証を取得していませんでした。
そういった背景もあって、BIBICOは工場で働いている人の名前も言えるくらい、工場と近い距離にいます。
────全く違うアプローチですね。
植月さん
そうなんです。なので、サスティナブルの基準はそれぞれあっていいんです。
もちろん、人と環境のバランスが両方取れていたら理想的です。しかし実際には、100:100でバランスが取れていることは少なく、現実的には60:80のブランドもあります。それでもいいのだと思います。
それよりも、「みなさんはどっちを選びますか?」という選択肢があることが重要だと思います。
Enter the Eは、どっちがサスティナブルかを議論するところではなく、みなさんが選ぶための手助けができるミシュランのような存在でありたいんです。なので、店舗ではそれぞれのブランドが持つ物語を伝えることを大切にしています。
100%のサスティナブルを目指す姿勢
────サスティナブルの基準という話がありましたが、Enter the Eではどのような基準でセレクトしているのでしょうか?
植月さん
Enter the Eでは、次の6つの独自基準を設けています。
- 持続可能な材料
- 情報の透明性
- 創設者、デザイナーのビジョン
- デザイン
- 作り手へのリスペクト
- エネルギー・CO2・資源の使用削減に対する努力
この中でも特に重視しているのが創業者のビジョン。先ほども申し上げたように、100%のサスティナブルは存在しないと考えているのですが、その中でも100%を達成しようとしている姿勢を重要視しています。
なので、ブランドを選ぶためにも創業者には直接会うようにしているんです。
普通の人が普通に選べるということ。
────ブランド選びの基準はわかりました。ただ、環境配慮の洋服というと、値段も高くなる気がしますが、いかがでしょうか?
植月さん
また、普通の人が普通に選べることが重要だと考えているので、デザインも価格帯も普通の人が普通に選べるものをセレクトしています。
なんで「普通の」を大事にしているかと言いますと、入り口を環境配慮にしたくないんです。
選択肢になるということは、環境配慮しているのにかわいいのではなく、かわいいと思ったブランドがたまたま環境にも良かったという購買体験が理想だと思うんです。
だから、環境配慮などの表示はあまりせずに、お客様に直接物語を伝えることは大切にしています。
────ファッションを楽しむ人に対して植月さんから伝えたいことはありますでしょうか?
植月さん
ファッションを楽しむという観点でも、環境配慮の観点でも、本当に大切に着る服を選んでいただけると嬉しいなと思います。
その場しのぎの買い物じゃなくて、5年後も10年後もその服と一緒に居たいと思えるか、子どもや孫の代にも引き継ぎたいと思えるかというところですね。
洋服屋さんが言うのもなんですが、洋服って実際はそんなに必要ないと思います。なので、究極は「毎日着たいと思う服」を選ぶことなのではないでしょうか。
────流行を追うのがファッションの1つの楽しみだと考えていたので、今のメッセージには少しびっくりしました(汗)
植月さん
流行を追うのもいいですが、それはつまり、周りに合わせていることだと言うこともできます。
ただ、今はもう世の中にこだわる時代でもないなと思っていまして。
なので、自分は何が必要なのか、何が似合うのか、そんな自分を見極める力をつけて、大事に洋服を選んで着ていただけたらと思います。
ファッションで迷惑を掛けたからこそ、ファッションで恩返しを。
────それでは、最後の質問になりますが、将来の展望を教えていただけますか?
植月さん
もっと大きなソーシャルインパクトを生みたいと考えています。
Enter the Eでは、「10着のうちの1着をサスティナブルに」を標語の1つに掲げていますが、1億2000万人の10着のうちの1着にしていきたいです。
地球を汚してしまったのが洋服なので、洋服で地球に恩返しがしたいなと思います。
ここまでは地球と共にというのが一つのテーマなのですが、ゆくゆくは地球を再生していければいいなとも考えています。
リジェネラティブ(再生型)農業が近年注目を集めていますが、洋服が汚染や作り手の搾取ではなく、むしろ大地を支えるもの、世の中をエンパワーメントするものであればいいなと思います。
例えば、休耕地にオーガニックコットンを育てて土壌を再生させるような取り組みを考えていていたりします。
勝手にリジェネラティブファッションと呼んでいますが、そのように服で地球に恩返しがしたいです。
編集後記
今回は、サスティナブルファッションから、環境や社会の問題に挑むEnter the Eさんを紹介しました。
一口にサスティナブルブランドと言っても、違うアプローチをしていて、それでも良くて、何よりも100%のサスティナブルを目指す姿勢が重要だと仰っていたのが印象的でした。
みなさんも、サスティナブルファッションのという1つの枠にとらわれずに、お気に入りのブランドを探してみてはいかがでしょうか。
サスティナブルファッション関しては下記をご覧ください
▶︎サスティナブルファッションとは?
それでは最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
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