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2018.08.11

紹介マーケティングによるグロースハック~DropboxやUberの事例~

製品・サービスを利用しているユーザーが口コミでサービスを紹介、新たなユーザー獲得に繋がるようなバイラルな仕掛けはグロースハック実現のための代表的な手法の1つ。この口コミによるマーケティング効果を、ある意味で意図的に起こそうというのが友人招待プログラムや紹介マーケティング(Referral Marketing)によるグロースハックです。

既存ユーザの友人や知人に製品・サービスを案内してもらう代わりに、キャッシュバックや割引クーポン、あるいは他にユーザーにとって有益なものを提供するマーケティングプログラムを指す、紹介マーケティング。

このようなマーケティング手法を利用した代表的なグロースハック事例として、このページではDropboxやAirbnb、Uberなどの事例を紹介します。これらのグロースハック事例で共通しており、成功の鍵と考えられるのは以下の3点です。

・紹介・招待に対するインセンティブ・ベネフィットが明確で分かりやすいこと
・紹介者だけでなく紹介された側にもベネフィットがある(=双方向である)こと
・招待方法が簡単でシンプルであること

それでは紹介マーケティングによるグロースハック事例を見ていきましょう。

青木綾
青木 綾(RYO AOKI)
EXIDEA米国支社「EXIDEA GLOBAL USA INC.」代表。2002年株式会社リクルート入社、就職情報サイト「リクナビ」や宿泊予約サイト「じゃらんnet」等のサービス開発やプロデューサー業務に従事。2014年に退職後、アメリカ・カリフォルニア州・ロサンゼルスに移住。現地で日本語情報誌を発行する「Lighthouse」のVice Presidentを経て、2018年より現職。(Twitter: @RyoAoki9

友人紹介マーケティングによるグロースハック~Dropboxの事例~

友人紹介・招待プログラムによるグロースハック事例で、最も代表的なのがDropbox(ドロップボックス)の事例でしょう。日本語版のサービスも提供されているのでご存知の方も多いかも知れませんが、Dropboxの急成長・グロースハックの経緯とあわせて説明します。

Dropbox(ドロップボックス)とは

dropboxのロゴDropboxはアメリカ・サンフランシスコに本社を置くオンラインストレージ・ファイル共有サービスであり、2017年の売上が11.1億ドル(約1,232億円)、2018年時点で世界180カ国で5億人以上の登録ユーザ(そのうち、有料課金しているユーザーは約1,100万人)を獲得している巨大サービス。

ソフトウェアをインストールし、パソコン上の特定ローカルフォルダにファイルを保存するだけでインターネットを通じて他人と簡単にファイルを共有でき、他人がファイルを編集した場合も自動的に同期されるので常に最新状態のファイルを複数人で共有できる便利なサービスです。

また共有ファイルはDropboxのWEBサイト(オンラインストレージ)上でも閲覧可能と、ファイルの共有やメールで送信しづらい大容量のファイルの受け渡し手段として、個人利用はもちろん、企業単位で導入・ビジネスでも活用されています。

100億ドル(約1兆1,100億円)の企業価値があると評価されていましたが、2018年にアメリカ・NASDAQ証券取引所での新規株式公開(IPO)を果たしたことでもニュースになりました。

Dropboxの登録ユーザー数の推移データ

登録ユーザー数の推移データを確認すると、直近では1年に1億人もの新規ユーザー獲得を実現したDropbox。サービス開始初期にはGoogle Adwordsなどの有料マーケティングによってユーザー獲得を試みた時期もあったそうですがROIが悪く、それ以降は有料の広告・宣伝マーケティングに頼らずに、新規のユーザー獲得を実現しています。

2008年9月 登録ユーザー数10万人
※サービス開始
2009年12月 登録ユーザー数400万人
※サービス開始から15ヵ月で40倍
2012年11月 登録ユーザー数1億人
2013年11月 登録ユーザー数2億人
2014年5月 登録ユーザー数3億人
2015年6月 登録ユーザー数4億人
2018年2月 登録ユーザー数5億人
※うち有料会員は約1,100万人

インターネット上のファイル共有サービス・Dropboxのビジネスモデル

創業者であり、当時マサチューセッツ工科大学(MIT)の学生であったドリュー・ヒューストンとアラシュ・フェルドーシは、「Throw away your USB drive!(USBドライブはもう不要だ!)」という考えのもと、インターネット上でファイルを保存・共有できるDropboxを立ち上げました。誰でも無料で利用できる、いわゆる「フリーミアム」モデルのサービスで、Dropboxにユーザー登録するだけで2GBのオンラインストレージを利用できます。

この2GBのストレージで不足する場合、月額料金$9.99を支払うと1TB(1,000GB)のオンラインストレージを利用可能な有料会員となります。また会社・法人単位での導入では、個別のニーズに合わせたストレージサイズや料金のカスタマイズにも対応しています。

無料でサービス利用ができる会員制度と、有料会員化によるマネタイズという点では他のフリーミアムモデルのビジネスと大きな違いはありませんが、無料会員の新規獲得の部分にDropboxのグロースハックが隠されています。

顧客が顧客を呼ぶという考え方~「友人紹介」によるグロースハック事例

ドロップボックスの紹介マーケティング創業者の1人、ドリュー・ヒューストンによるとDropboxは「友人を招待すると、無料でオンラインストレージの追加容量をプレゼントする」というマーケティング施策によって、ユーザー登録が60%以上伸びたと明かしています。それほどまでにDropboxのユーザー獲得の原動力となったグロースハック事例が「友人紹介」制度

これはDropboxに友人を招待、招待された友人がDropboxにユーザー登録し、ソフトウェアをダウンロード、インストールする度に、招待者と招待された友人の双方に500MBの追加容量をDropboxがプレゼントするという内容。1ユーザーあたり最大32名の招待で16GBまでの追加容量を無料獲得することが可能というマーケティング施策です。

有料会員にならなくても、努力によってストレージ容量を増やせるという考え方(ストレージ容量が不足したら、友人にDropboxを紹介すれば良い)を導入、無料会員のままでも自分の努力次第でサービス内容をアップグレードできるようにした点が、Dropboxの最大のグロースハックと考えられます。一見すると有料会員化の弊害ともなりそうな「友人紹介」プログラムが、顧客(ユーザー)が顧客(ユーザー)を呼ぶ、半永久的なマーケティングエンジンとなった事例です。

双方向のマーケティング施策である点も重要なポイント

また“双方向の招待”(紹介者と紹介された友人の双方にプレゼント)施策であった点も重要なポイントで、招待された友人からすると自らDropboxにユーザー登録するよりも、「招待を受けてからユーザー登録したほうが得する」ことを実際に体験できます。このため、積極的に自分も仲の良い友人・家族に紹介したくなるのです。

Dropboxの容量が不足してきたら友人を紹介、またさらにサービスを使い込んで容量が不足したら友人を紹介するということを繰り返す度に、サービスへのエンゲージメントが深まるほか、有料会員化する可能性も高まります。つまり、「友人紹介」マーケティングは新規ユーザー獲得のためのグロースハック施策のみならず、ユーザーエンゲージメントを高め有料会員化を促すためのグロースハック施策としても機能した事例とも言えます。

無料会員のまま追加容量を増やす方法や機能が他にも

Dropboxは友人紹介マーケティング以外にも、さまざまな形で追加容量を無料でプレゼントする方法や機能を用意しており、これらのマーケティング施策もユーザー本人のエンゲージメントを高めたり、Dropboxの認知・ユーザー獲得を推進するためのグロースハック事例の1つです。

例えば、以下の項目のうち5つを完了すると無料会員でも250MBの追加ストレージを獲得可能としています。

  • Dropboxのオンライン案内ツアーを開始する
  • パソコンにDropboxをインストールする
  • Dropboxフォルダにファイルを保存してみる
  • 別のコンピュータにもDropboxをインストールする
  • 友人や知人、同僚と1つのフォルダを共有してみる
  • Dropboxに友人を1人招待する
  • モバイルデバイスにDropboxをインストールする

「インセンティブ(=追加容量)を設定、登録するだけでなく実際にサービスを利用してもらう」ための施策は、登録直後のユーザーをよりアクティブな状態に保つのに有効なグロースハック施策と考えられます。

またFacebookでシェアをする、Twitterアカウントと接続するなど、ユーザーが持つソーシャルメディアのアカウントとDropboxを連携させることでも追加容量をプレゼント、ソーシャルメディア上でもDropboxの情報が拡散するような仕掛けもありました。(現在、このグロースハック施策は休止されているようです)

このようにストレージの追加容量というDropboxがすでに持っている“資産”をインセンティブとして活用、広告宣伝などのマーケティングに費用・キャッシュを使うことなく大規模なユーザー獲得に成功している事例は、特に資金が十分でないことも多いベンチャー企業のグロースハックで重要な考え方。またDropboxはグロースハックの好事例としてさまざまなメディアでも取り上げられています。

Airbnb・Uberの急成長を支える招待プログラムによるユーザー獲得事例

AirbnbやUberの急拡大も、Dropboxの友人紹介マーケティングと似たインセンティブ制度によって支えられています。顧客(ユーザー)による顧客(ユーザー)招待プログラムは、グロースハックの1つの手法として確立されつつあるようです。

Airbnb(エアビーアンドビー)のグロースハック事例

airbnbのロゴ宿泊予約サービスを運営するAirbnb(エアビーアンドビー)もアメリカ・サンフランシスコに本社を置く会社で、2017年の売上が26億ドル、2018年時点で掲載されている宿泊施設数は全世界で400万軒、全世界で1億5,000万人以上のユーザーがいるとされているほか、これまでの延べ宿泊件数が3億件に達したことが公表されています。

Airbnbの宿泊件数データの推移

2016年に累計1億件を突破、またすでに2018年時点で累計3億件に達していることから、直近では1年間で1億件以上の宿泊がAirbnbを通してなされていることが公開データから推測できます。そして、このAirbnbのユーザー獲得の一部は、Dropboxの事例と似た友人紹介マーケティングを活用したグロースハックに支えられているのです。

2009年 サービス開始・21,000件
2010年 140,000件
2011年 800,000件
2012年 3,000,000件
2013年 6,000,000件
2014年 16,000,000件
2015年 40,000,000件
2016年 80,000,000件(累計1億件を突破)

友人紹介マーケティングを活用したAirbnbのグロースハック施策

airbnbの紹介マーケティングAirbnbの紹介プログラムは、ユーザーが自分の友人を紹介し、その友人がAirbnbを使って最初の宿泊を完了すると招待したユーザーと招待された友人の双方に$25のクレジット(割引コード)を提供するというマーケティング施策。AirbnbのWEBサイトだけでなく、AirbnbのiOSアプリやAndoroidアプリからも簡単に友人を招待できるよう、サービスに組み込まれています。

Airbnbのグロースハック施策が強力に効果を発揮している理由の1つが、この友人紹介マーケティングの効果モニタリングやA/Bテストを徹底、継続的に行っている点。Airbnbではユーザー1人あたりの友人招待数をモニタリング、これを増やすためにA/Bテストを活用したり、招待された友人の宿泊予約率(招待メールからのCVR)を高めるためのリマインダー機能を追加開発するなど、継続的にグロースハックに取り組んでいます。

結果的に、ある特定のセグメントではこの紹介マーケティングの活用で25%以上、宿泊予約が増加、グロースハックを実現している事例です。

Uber(ウーバー)のグロースハック事例

uber自動車配車サービス・Uber(ウーバー)の急成長もまた紹介マーケティングによるグロースハックに支えられています。日本では本格的に普及していないようですが、EXIDEA・米国支社のあるアメリカ・カリフォルニア州には14万8千人の登録ドライバーがおり、ドライバーの直接収入なども含めて400億円もの経済効果を州にもたらしているとのこと。すでにアメリカでの生活において必須のサービスになりつつあります。

Uberの紹介インセンティブとLife Time Value(LTV:顧客生涯価値)

Airbnbと同様、Uberの紹介プログラムもまた招待者と招待されて新規に登録したユーザーの双方に$20(約2,200円)分を無料で乗車できるクレジットを提供するという施策。この紹介マーケティングによるユーザー獲得コストは1ユーザーあたり$40(約4,400円)となりますが、UberのLife Time Value(LTV:顧客生涯価値)に着目すると1ユーザーあたりの1ヶ月の平均利用金額は$95(約1万円)。つまり、ユーザー獲得コストを会員獲得後1ヶ月で回収できる極めて優秀なグロースハック事例です。

Uberのサービスが利用しやすく、また生活に根付いていくほど、既存ユーザーにとって$20のクレジットの価値が高まり、自分の友人や家族など関係する人すべてに招待メールを送ろうとする力学が働きます。またこの紹介マーケティングは、新たな乗客ユーザーの獲得だけでなくドライバーの獲得にも繋がっているようです。

招待によりUberのドライバーが増え、よりUberが使いやすいサービスになるほど紹介プログラムの利用が進み、さらに乗客ユーザーもドライバーも増えていくというグロースハックが、今まさにアメリカで起きていると言えます。

BtoBのグロースハックでも紹介マーケティングが有効な事例~Heapの場合~

紹介マーケティングによるグロースハックですが、これはBtoCのユーザー獲得に限った手法ではありません。BtoBの顧客獲得でも紹介マーケティングを活用している事例として、WEBサイト・アプリの分析ツール「Heap Analytics」の事例を紹介します。

顧客のWEBサイトで自社製品・サービスを紹介してもらう仕組み

heap analyticsの紹介プログラム「Heap Analytics」はWEBサイトやスマートフォンアプリなどでのユーザー行動を統合的に解析・管理できるマーケティングツールで、これ自体もグロースハックに役立つツールの1つ。このツールが対象とする顧客はWEBサイトやスマホアプリを開発・運営する企業、あるいはそのマーケティング・分析担当者で、ビジネスモデルとしてはBtoBビジネスの1つと考えられます。

Dropboxの場合と同様、無料でもサービスを利用できますが、ユーザーの行動データを取得・分析できるのが月間5,000セッションまでとそれ以上のデータ取得を行う場合は有料課金されるフリーミアムモデルのサービスです。

Heap Analyticsはこの部分に紹介マーケティングの仕組みを持ち込み、無料利用中の顧客が自社のWEBサイトにHeap Analyticsのロゴを掲示、Heap Analyticsのサイトへのリンクを設置すると、無料で50,000セッションまでデータを取得できるようになる紹介プログラムを提供しています。

Heap Analyticsからすると、さまざまなWEBサイトに自サービスのバナー・ロゴが掲出され、サービスの認知向上やSEO的な効果、新たな顧客獲得なども期待できる仕組みであるほか、月間50,000セッションの分析・解析を行うようになることで対象の無料会員の中には有料サービスに移行したい、と考えるところも出てきそうです。

このように1つのマーケティング施策で複数の成果を期待できる点は、グロースハック事例に共通した特徴の1つと言えます。

招待プログラムを簡単に実装・利用できるグロースハックツール・ReferralCandy

ReferralCandyユーザー向けの招待マーケティングがグロースハックに有効とは分かっても、いざ自分のサービスに実装するとなると難しい部分もあるかも知れません。この招待プログラムを簡単に利用・実装でき、グロースハックを手助けしてくれるのが「ReferralCandy」のようなマーケティングツールです。

日本語版がまだ無いようで、またShopifyやWoo Commerceなどのプラグイン・ECプラットフォーム機能のウィジェットとして実装することを前提としたツールですが、招待プログラムに欠かすことのできない下記のような機能を簡単にWEBサイトへ導入・実装できるグロースハックツールです。

  • 招待者ごとにユニークな招待用URLの発行
  • 招待された友人・知人向けのランディングページの作成
  • 招待されたユーザーによる購入完了後、紹介インセンティブを自動付与・送付する機能
  • 招待プログラムの不正利用(重複利用など)の防止機能
  • 招待プログラムによる効果・売上・CVRなどの検証・モニタリング機能

上記のようにモニタリング機能までをイチから設計・開発しようとすると難易度が高かったり、想定以上のシステムコストがかかる場合も考えられますが、このReferralCandyのようなマーケティングツールを活用すれば月額数千円の利用料金のみで実装可能です。このようなツールを上手く活用してグロースハックを短時間で実現していくことも、またグロースハッカーに欠かせない要件ですね。

以上、友人招待プログラムや紹介マーケティングによるユーザー獲得のグロースハック事例や有用なマーケティングツールを紹介しました。

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