地捨地産で消費者の意識拡大を。WAcKAのTシャツヤーンを通じて伝えたいこと
新品衣料品の廃棄問題にアップサイクルを通じて取り組むWAcKA。
環境問題に関心を持つ人を増やすために、Tシャツヤーン(手芸糸)iTToの販売やiTToを使ったワークショップに取り組みます。
今回はWAcKA代表の梶原誠さんにお話を伺いますが、梶原さんも決して最初から環境意識が高かったわけではなかったとのこと。
意識を変えたきっかけ、そして問題に取り組む上で大切にしていることは何なのでしょうか。
バングラデシュでの経験が考えを180度変えた。
────それではまず、どのような事業をやられているか、教えていただけますか。
梶原さん
WAcKAではアップサイクルをテーマに事業活動を行っています。その中でもメインが、新品の廃棄される運命にあるTシャツを手芸糸のTシャツヤーンにすることです。
TシャツヤーンはiTToという商品名で、ECでも販売しているのですが、iTToを利用したワークショップも開催しております。
────Tシャツを用いたアップサイクル事業ということだと思うのですが、なぜWAcKAの事業を始めようと思ったのでしょうか。
梶原さん
私が長きに渡って繊維産業に関わっていたことに起因します。
20年繊維産業で働いていて、2012年くらいからバングラデシュに出張でいくことが多くなりました。
バングラデシュでは新規工場の開拓と、既存工場の品質管理を行っていたのですが、当時の私も環境問題や地域課題に意識がなく、とにかく安く作れる工場を探していましたし、少しでも安く作れるように要求していました。
そんな中、ファッション史上最悪と言われるラナプラザ崩落事故が起こったんです。
その時初めて、先進国が安さを求める欲求が怖いと思いました。
テロなどの直接的なものではなく、欲求が間接的に人の命を奪っているのが怖いと感じたんです。
誰かを犠牲にしているその雇用は正しいのか。
────確かに近年ではファストファッションの闇の部分も認知され始めましたが、当時は全然意識が違ったんですね。
梶原さん
私も以前は、大量生産は誰かの雇用を生み出していると考えていました。ただ、足りなかったのは、その雇用は正しいのか?という視点です。
バングラデシュは輸出の約8割が繊維産業に頼っています。その中には子どもが働いている工場もありますし、環境が劣悪な工場も存在します。さらにファッション産業は世界2位の汚染産業だと言われている事実があります。
その時に、これまでのアパレルの在り方では、遠くの誰かを犠牲にしているし、環境を汚すことで未来の誰かも犠牲にしているなと思ったんです。
────バングラデシュでみた現実が大きなきっかけになったのですね。そこからどうされたのでしょうか。
梶原さん
バングラデシュより帰任してからは2週間で退職しました。
それまでは千葉に住んでいて、日中は東京で仕事をして、夜まで帰ってこないような生活だったのですが、退職してからは時間もできて、自分の地域にいることが多くなります。
そうすると、今まで見えてなかった地域課題が目につくようになりました。
────例えばどのような課題でしょうか。
梶原さん
消費者と話をしてみるとやはりみんな安いものが欲しいや、より豊かになりたいという思いがすごく強かったんです。
それに環境意識も低く、SDGsを知らない人がすごく多いのにショックを受けました。と同時に意識改革が必要だと考えたんです。
意識改革にはどうアプローチしたらいいのかと考えて、既存の資源を使って何かを作ろうと思いました。それが今のアップサイクル事業につながっています。
エネルギーではなく新たな雇用を。
────そういうことですね。では実際にどのようにTシャツヤーンを作っているのかをお伺いしてもよろしいでしょうか。
梶原さん
回収、製造、販売と体験の3つに分けてお話しできればと思います。
まず、WAcKAがどのように回収しているかについては、主にアパレルから廃棄予定の新品Tシャツを回収しています
これは最初本当に苦労しました。どこ産業でも廃棄の問題はありますし、構造上仕方無いことなのですが、やっている本人たちが廃棄は悪だと思っていたんです
なので、ブランドを毀損するものとして、公表したく無いと考えられていました。
それが、原型もどのブランドのものかもわからない手芸糸に変えていることにも繋がります。
────実際にアップサイクルする段階においてはいかがでしょう?
梶原さん
せっかく環境配慮しているのに、アップサイクルする事で、新たなエネルギーを消費するよりも、新たな雇用を増やせないかと考え、福祉施設での生産を始めました。
福祉施設の方は、一般的に給料が安くなってしまうのですが、WAcKAでは対価を支払うようにしております。
問題に触れてもらうためのワークショップ。
────廃棄予定のTシャツを福祉施設の方に製品にしてもらっているということですね。
梶原さん
そうです。出来上がった製品は、WAcKAのECで販売する、もしくはワークショップで使用します。
特に重要視しているのがワークショップです。
WAcKAのワークショップでは、以下の2つを大事にしていまして
- 手芸糸から製品にすることを体験することで、一緒に社会貢献をしている実感を味わってもらうこと
- 自分でものを作る体験をすることで、ものの金銭的な価値だけでなく、本当の価値を体験してもらうこと
このようにわざわざ時間と労力を掛けることで、みんなが社会貢献の一員である当事者意識を醸成しています。
────そんな狙いがあるワークショップだとは知りませんでした。確かWAcKAのホームページにも記載はなかったかと思います。
梶原さん
あえて書いておりません。参加の敷居を下げて、より多くの人に問題に触れ合ってもらいたいんです。
なので、編み物のワークショップをしている中で、廃棄の問題を話したり、それは私たちが生んでいる問題だということに触れてもらうんです。
また、WAcKAのワークショップが地域の活性化に繋がるように、開催場所は公民館ではなく、カフェやレストランで行っていますし、活躍の場所を作る意味で、講師はシニアの方にお願いしております
────このように、アップサイクルのTシャツヤーンだけではなく、より包括的に周りを巻き込んでいるのはなんででしょうか?
梶原さん
私が、アップサイクルは製品自体ではなく、『今ある価値よりも高めるもの、付加価値をつけるもの』の考え方だと思っているためです。
そういう意味で、少子高齢化に直面する地域の魅力を高めることもそうですし、生活に困窮している方や外国籍の方、障害を抱えている、ちょっと生きづらさを感じている方が輝ける場を作れればと考えています。
地捨地産をモットーに、アップサイクルを。
────それでは最後に、WAcKAの将来の展望を教えてください。
梶原さん
WAcKAでは事業の拡大ではなく、行動を起こす人の数を増やしたいと思っています。
大きなことをしないと社会に貢献できないと考えている人が多いと思うのですが、そうではなくて、本当に小さなことでいいと思うんです。そのためにも、WAcKAではワークショップなど、誰でも参加できる場をこれからも提供していきたいと思います。
環境意識がまだまだ低い日本ですが、意識の拡大をやっていきたいです。
また、意識の拡大をするという意味では、繊維にとらわれず様々なアップサイクルに取り組みたいと考えています。
地元で産まれたモノを地元で消費することで、地域活性と環境保全に貢献しようとする地産地消という概念がありますが、地元で “捨” てられたモノを地元で再利用し新しいモノを “産” むという地捨地産に、アップサイクルで取り組みたいと思います。
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