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2018.08.14

メールマーケティングによるグロースハック~手法やツール・Hotmailの事例~

全世界でE-mail利用者は37億人。利用者数はいまだに増え続けているとのこと(Radicati Group, Inc./ラディカティグループ調べ)。Facebookのユーザー数が全世界で15億人前後であることを考えると、現時点でもまだメールマーケティングは有効なグロースハック手法の1つであることが分かります。

日本国内においても、総務省の「情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査」の結果を見ると、10代・20代の若年層ではソーシャルメディア利用者が増えているものの未だメールは主要なコミュニケーション手段の1つであり続けているようです。

加えて、まだ歴史の浅いソーシャルメディアマーケティングと比較して、十分な知見があり、またすでに獲得済みのメールアドレス資産を活用できるメールマーケティングはROI(費用対効果)が高いことが各調査で明らかになっており、グロースハッカーであればメールを活用したグロースハック方法も1つの武器として身に付けておきたいもの。

このページでは、メールマーケティングによるグロースハック事例を紹介するとともに、以下の3つの観点ごろにグロースハックを実現する具体的な施策や方法などを紹介していきます。

アドレス数獲得のグロースハック(顧客、ユーザー、見込み客のメールアドレスを急速に獲得する方法)
開封率のグロースハック(送信するメールの件名を改善するなどして開封率を劇的に高める方法)
メールからのアクション率・クリック率のグロースハック(メール本文やフォーマットの改善によりクリック数を向上させる方法)
青木綾
青木 綾(RYO AOKI)
EXIDEA米国支社「EXIDEA GLOBAL USA INC.」代表。2002年株式会社リクルート入社、就職情報サイト「リクナビ」や宿泊予約サイト「じゃらんnet」等のサービス開発やプロデューサー業務に従事。2014年に退職後、アメリカ・カリフォルニア州・ロサンゼルスに移住。現地で日本語情報誌を発行する「Lighthouse」のVice Presidentを経て、2018年より現職。(Twitter: @RyoAoki9

メールによるグロースハック事例~Hotmailの場合~

Hotmailのロゴ1996年7月にサービスが開始されたHotmailは、GmailやYahoo!メールなどと同様の無料のWEBメールサービスでした。1997年12月にマイクロソフトに買収され、「Windows Live Hotmail」などに名称が変わった後、現在ではマイクロソフトの「Outlook.com」に吸収され、Hotmailという名の付くメールサービスは無くなっています。

当時、シード企業として30万ドル(当時の為替レートで約0.4億円)を資金調達、サービスを開始したHotmailですが、サービス開始から18ヶ月後のMicrosoftへの売却額は4億ドル(約520億円)。このわずか1年半でのHotmailの急速な成長の裏にはグロースハックと呼べる数々の施策がありました。グロースハックの代表事例として取り上げられることも多いHotmailの事例をまずは紹介します。

メールの署名欄を活用したHotmailのグロースハック施策

PS-I-Love-You

Hotmailの署名欄下に挿入された一文

Hotmailのサービス開始当初、メールアカウントの開設を促すためのマーケティング手法としてテレビCMやラジオなどに予算を投下して広告宣伝施策を行っていました。当初の1日あたりの新規ユーザー獲得数は200程度(年間7万ユーザーを獲得するペース)。1日に200人のユーザーを獲得できていれば、それだけでも十分な施策と感じますが、Hotmailの投資家には不十分だったようです。

またテレビCMやラジオCMに予算を割いていたものの、実際に獲得したユーザーの80%は「口コミ」でHotmailに登録したことが分かり、従来の広告宣伝マーケティングが効果を発揮していないことも明らかになりました。

そこでHotmailの投資家の1人ティム・ドレイパーがある1つの提案を行いました。
Hotmail経由でやり取りされるすべてのメールのフッター(署名欄の下)に

‘PS: I love you. Get your free e-mail at Hotmail’
-PS: アイ・ラブ・ユー。Hotmailで無料メールアカウントを開設できるよ。

という1文(リンク)を追加することを提案したのです。

このたった“1行を追加する”という施策が大きなグロースハックに繋がりました。施策が実行に移されると、Hotmail以外のメールユーザーにも署名欄下のフッター部分を通じて、Hotmailサービスの告知が一気に拡大したのです。1日あたりの登録ユーザー数は200から3,000(年間100万ユーザーを獲得するペース)に跳ね上がりました。

アカウントが増えるほどに、さらに“PS: I Love You.”の入ったメールの送信量が増えます。Hotmailの登録ユーザー数はその後も増加し続け、サービス開始から3ヶ月でのメールアカウント数は75万件、6ヶ月で100万件にまで到達しました。最終的には1日あたり2万アカウントが開設され、マイクロソフトへの売却時点では累計850万人以上が登録していたと言われています。当時のインターネットユーザー数が全世界でまだ7,000万人程度だったことを考えると、もの凄く大きな数字であることが分かります。

既存の広告宣伝マーケティング手法にとらわれず、また予算もかけず、自らが持つ資産を徹底的に活用して短期間で圧倒的な事業成長を実現した、まさにグロースハックと呼べる事例です。

グロースハックによりメールマーケティング効果を劇的に改善するには?

Hotmailの事例はメールという手段を使った1つのグロースハック事例ですが、サービス内容が「無料のWEBメール」であるためグロースハック事例としてはやや特殊かも知れません。一般的に、メールマーケティングの効果を短期間で圧倒的に高めるためのグロースハック手法としては、以下の3つの観点に分解して考えることができます。

【1】アドレス数を獲得するためのグロースハック
メールでアプローチできる顧客やユーザーの数(=アドレスの数)が1万、10万、100万と急速に増加すれば、その分だけメールマーケティングの効果(メール経由での売上など)も劇的に高まります。アドレス数を一気に獲得するためのグロースハック手法には、どんなものがあるでしょうか?
【2】開封率向上のためのグロースハック
送信したメールが開封されなければマーケティング効果は低いものとなります。メールを受信した顧客・ユーザーに「メールの中身を読みたい」と思わせるような件名や、適切な配信時間など、開封率を劇的に高めるグロースハック手法にはどんなものがあるでしょうか?
【3】メール経由のクリック率向上のためのグロースハック
メールを開封したユーザーに、意図したアクション(リンクやボタンのクリック、WEBサイトへのアクセスなど)を効率よくしてもらう必要があります。クリック率を圧倒的に向上させるようなメール本文・フォーマットのグロースハック手法にはどんなものが考えられるでしょうか?

【1】アドレス数を獲得するためのグロースハック方法や事例

すでに大量のアドレスを保有していない限り、メールアドレスの獲得・収集はメールマーケティングで最大限の効果を生み出すために欠かせません。このアドレス数を圧倒的に増やすためのグロースハック手法として、アメリカを中心によく活用されている方法をいくつか紹介します。

●WEBサイト来訪ユーザーにメールアドレス登録を促す仕組みを導入

メルマガ購読フォームのイメージアメリカの企業サイトやメディアサイトを訪問すると、かなりの頻度でポップアップ画面やスティッキーヘッダーが表示され、メールアドレスの登録などを促す仕組みが導入されていることが分かります。このような形で、来訪ユーザーに必ずメールサービスがあることを認知させることが、アドレス獲得に効果的。また一から開発・実装しなくても、すでに様々なプラグイン・アプリケーション(例えば「SumoMe」など)が提供されており、簡単にWEBサイトへメルマガ購読フォームなどの仕組みを利用できます。

●登録フォームのA/Bテストによる検証・グロースハック方法

List BuilderのA/Bテスト画面メールアドレスの登録完了率を向上するため、アドレス登録フォームそのものをA/Bテストで検証する方法もグロースハックに欠かせない施策の1つ。前述した「SumoMe」のList Builder(リスト・ビルダー)というサービスは、WEBサイトへ簡単にメールアドレス登録フォームやスティッキーヘッダー/フッターを実装できるほか、複数のパターンを作成してA/Bテストの実施も可能な優れたメールマーケティングツールであり、グロースハックツールです。

●特別な資料やeBookを制作、ダウンロード時にメールアドレスを獲得する事例

Oracleの資料ダウンロード画面

米国オラクル社の資料ダウンロード画面の事例

特にBtoBビジネスを行う企業で、潜在的な顧客のメールアドレスを獲得するためのグロースハック方法として有効なのが、特別な資料(ホワイト・ペーパー)やeBookなどのコンテンツを制作、これを無料でダウンロードできるようにするという施策。

内容は業種などによっても異なりますが、その業界にいる人であれば誰もが読みたくなるような冊子(例えば、弊社EXIDEAで言えば「無料!明日からできるグロースハックマニュアル」や「カンタンSEOガイドブック」など)を作成、ファイルをダウンロードするにはメールアドレスの入力を必須とすることで、見込み顧客のメールアドレスを獲得可能です。当然ですが、ダウンロードできる資料の内容が魅力的であるほどマーケティング施策の効果が増すと考えられます。

【2】開封率向上のためのグロースハック方法や事例

オバマ・アメリカ合衆国大統領メールマーケティングの効果を最大化し、グロースハックを実現するために、配信するEメールの開封率を向上させる方法は最も取り組みやすい方法の1つ。

Eメールの開封率を高めるためには配信時間やメールのタイトル・件名の改善が必要で、またメールアドレスのリストを属性などに応じていくつかのセグメントに分割、各セグメントに合った内容(タイトル・件名)を配信するようなマーケティング手法も、全体の開封率を向上させるのに有効です。

この開封率向上のグロースハックで有名な事例が、オバマ・アメリカ元大統領の選挙戦におけるメールマーケティングです。

アメリカの大統領選挙では、支持率を高めると同時に個人献金を集める目的でもWEBマーケティングが活用されています。有権者にメールアドレスを登録してもらい、選挙期間中、定期的に政策や選挙活動の状況を発信したり、個人献金を依頼するようなメールマーケティングも行われています。

アメリカ大統領選挙でのメールマーケティングによるグロースハック事例

アメリカ大統領選挙でのメールマーケティング2012年のアメリカ大統領選挙でオバマ陣営はデジタルマーケティング担当者を200名雇用、そのうちの18名がメールマーケティングを担当しました。1回のメール配信でも、異なる件名・本文の組み合わせで18パターンのメールを作成、一部の配信先でテストしてから最も効果が良かったものを残りの全配信先に送信するという手法が取られました。あらゆる施策を小規模でテストしてから実行に移す、というグロースハック手法が採用されていたのです。

最もこのグロースハック手法が効果を発揮した事例が、ある1つのメール配信です。12パターンの件名でテストして配信したところ、最も効果が良かったメールのタイトルと悪かったパターンで何とメールマーケティングの効果(献金額)が約2.5億円も変わる結果となったのです。

メールの件名 想定献金額
I will be outspent.(選挙資金が枯渇しそうです) $2,540,866
(※他に10パターンの件名をテスト)
The one thing the poll got right…(世論調査が正しいことの1つは…) $403,603
最も効果の悪い(=開封率の低い)件名ですべてのメールを配信していたら40万ドル(約4,500万円)しか獲得できなかったと想定されるところ、実際には配信テスト後に最も効果の良かったタイトルでメールを送信、約267万ドル(約3億円)の献金を集めることに成功したという事例です。グロースハックの手順を踏まず、もし思い込みだけで「The one thing the poll got right…」というメールを配信していたら、それだけで約2.5億円もの献金を失っていたのです。

このようなグロースハック手法の積み重ねにより、オバマ元大統領陣営は2012年の大統領選で10億ドル以上(1,000億円以上)の献金の獲得に成功しました。

【3】クリック率向上のためのグロースハックノウハウや事例

メールマーケティングの最終的な目標は、配信したメールを見てユーザーや顧客に目的とするアクションを喚起することであり、多くの場合、リンクやボタンをクリックしてWEBサイトにアクセスしてもらうことです。このクリック率を圧倒的に向上させるためには、何が必要でしょうか?代表的なグロースハックのノウハウや事例をいくつか挙げたいと思います。

メールは「モバイルファースト」で作成することが必要

メールを確認するデバイス日常的にEメールをどんなデバイスでチェックするかの調査結果から、米国ではパソコンよりもスマートフォンを利用するユーザーが上回り、若年層ほどスマホなどのモバイルデバイスを使用する傾向が高いことが分かっています(Adobe Consumer Email Survey Report 2017)。この傾向は日本国内市場も同様でしょう。

配信されるメールをまずスマホなどのモバイルデバイスで受信・閲覧するユーザーが、今後ますます増えると考えられます。つまりメールはモバイルデバイスで読まれることを前提に、WEBサイトと同様に「モバイルファースト」で作成する必要があります。

ESP(Email Service Provider)のメールマーケティング機能を活用

MailChimpのロゴメルマガ配信サービスや大量メール送信サービスはESP(Email Service Provider)と呼ばれ、配信通数が少なければ無料で利用できるサービスもあるため、メールマーケティングには欠かすことのできないグロースハックツールです。ESPは数多くのサービスがありますが、米国では「MailChimp」などのサービスが有名です。

これらの配信サービスがよく利用される理由は、モバイル向けのデザインにも対応したさまざまなメールテンプレートが用意されているほか、下記のようなマーケティング機能を活用してグロースハック施策を簡単に実践・モニタリングできるからと考えられます。

A/Bテスト機能を利用可能

多くのメール配信サービスでは、メールテンプレートや件名、配信時刻などのA/Bテスト機能を利用可能です。一部のセグメントでテストした後、残りの配信対象者にテスト結果の良い方のメールを自動配信するなどの設定もできます。

メールマーケティングのオートメーション機能

アドレス登録後の自動返信(お礼メールなど)から、登録後●日経過したら自動送信するメールを事前に設定しておくなど、メールマーケティング業務を自動化する(オートメーション)機能も利用できます。

開封可能性が高いタイミングを狙って送信タイミングを自動調整

一部のメール配信サービスでは、個々の配信対象者が開封しやすい時間帯を狙って、送信タイミングを自動調整する機能もあります。それまでの配信・開封履歴を参照して各送信先メールアドレスごとに開封可能性の高い時間帯にメールを送信し、自動でマーケティング効果を最大化してくれます。

購買履歴データなどと連動させ、パーソナライズ配信も可能

ECサービスであれば購買履歴などのデータとESPを連動させ、ユーザーの行動履歴に合わせたパーソナライズ配信なども可能です。例えばある商品を購入したユーザーには、次の商品をレコメンドするメールを送信するなどの自動配信設定が可能になります。

モニタリングや分析レポート機能も充実

もちろん開封率やクリック率をリアルタイムで確認できたり、A/Bテスト結果の分析レポート機能なども充実。Google Analyticsのデータと連動させて、メールマーケティングによるROIなどをモニタリングできるサービスもあります。

自社の製品・サービスに有効なメール送信サービス(ESP)の導入により、メールマーケティング効果を短時間で圧倒的に高めるようなグロースハックを実現できるかも知れません。

以上、メールマーケティングによるグロースハック手法や事例、メール配信ツールなどを紹介しました。

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